企業におけるテレワークの導入は、新型コロナウイルス感染症の発生により、大幅に進んでいる。ただし、中小企業は大企業と比較して導入が遅れているのが現状だ。中小企業は業種や業務に、テレワークを導入する際に困難な点があり、またそれ以外にも解決すべき課題がある。この記事では、中小企業によるテレワーク導入の現状と課題、およびポイントについて詳しく解説していきたい。
目次
中小企業のテレワーク導入率はどの程度なのか

最初に、中小企業のテレワーク導入率はどの程度なのかを見てみよう。総務省『令和元年度版 情報通信白書』によれば、企業のテレワーク導入率は下の図のように増加傾向で推移している。
【企業のテレワーク導入率の推移】

上の図の通り、2018年において導入率は19.1%となっている。
ただし、テレワーク導入率は企業規模により大きな差があるのが現状である。下の図は、2019年における企業規模別のテレワーク導入率だ。
【企業規模別テレワーク導入率】

上の図の通り、2,000人以上の企業のテレワーク導入率が46.6%であるのに対し、100~299人の企業のテレワーク導入率は14.5%と1/3以下。中小企業のテレワーク導入はまだまだ遅れていることがわかるだろう。
中小企業のテレワーク導入が遅れている理由
中小企業のテレワーク導入が遅れている理由を見てみたい。
テレワークの導入が遅れている業種
やはり総務省の資料によれば、テレワーク導入の産業別の状況は下の図のようになっている。
【産業別テレワークの導入状況】

上の図を見ると、情報通信業と金融・保険業のテレワーク導入率が4割を超えて飛び抜けて高くなっており、また運輸・郵便業が非常に低いレベルにあり、その他はだいたい全体の平均程度(約2割)となっている。
情報通信業と金融・保険業は、大企業が多い業界だといえる。それに対して、それ以外の産業は中小企業も多くある。中小企業のテレワーク導入が遅れているのは、中小企業が多く含まれる業種自体のテレワーク導入が遅れているからだといえそうだ。
テレワークでの対応が難しい業務とは
テレワークでの対応が難しい業務とはどのようなものだろうか。まず、建設業、製造業、運輸・郵便業などの現場での業務や、卸売・小売業、サービス業などでの接客対応は、テレワークで行うことはできない。基本的にオフィスでの業務のみ、テレワーク導入が可能だからだ。
オフィス業務でも、業務の種類は大きく分けて以下の3つがある。
・デスクワーク …自分のデスクで行うスケジューリングや資料・レポートの閲覧・作成、情報検索、メール送受信、決済などの業務
・ミーティング …社内や他社、あるいは顧客などとの打ち合わせなどの業務
・オペレーション …実物や実機などを使用して行う業務。製造・制作や検査、出荷、配送、あるいは顧客へのデモンストレーションなどの業務
このうちデスクワークについては、テレワーク導入が可能だろう。資料やレポート、情報、メール、決済文書などがデジタル化されていれば、オフィス以外の場所からでもインターネット回線とパソコンを使用して閲覧、編集、作成などができるからだ。
また、ミーティングについてもテレワークを導入できる。Web会議システムを利用すれば、相手の顔を見ながら複数の人と打ち合わせができ、またビジネスチャットを利用すれば、テキスト文字による簡単な打ち合わせも可能だ。
ただし、オペレーションに関しては、現状ではテレワーク導入は困難だろう。実物や実機を使用するには物理的な操作が必要だ。将来的に遠隔操作ができるロボットなどが導入されればテレワークも可能だが、現状ではロボットはあまり導入されていない。
以上のように、中小企業においては現場での業務や接客対応、オペレーション業務など、テレワークに対応できない業務が多くあり、これが中小企業のテレワーク導入が遅れている大きな要因だといえる。
中小企業のテレワーク導入における業務内容以外の課題とは?
中小企業のテレワーク導入が遅れているのは、テレワークに対応できない業務が多くあることが1つの要因だった。ここでは、東京商工会議所の資料から、テレワーク導入についてそれ以外にどのような課題があるかを見てみたい。
【中小企業がテレワークを導入するにあたっての課題(従業員規模別)】

出典:東京商工会議所『新型コロナウイルス感染症への対応について』
上の図は、従業員規模別の、中小企業がテレワークを導入するにあたっての課題を示したものだ。グラフで右から2番目の「テレワーク可能な業務がない」が、回答数としては最大になっている。
そのほかに、中小企業がテレワークを導入するにあたっての課題として、以下の3つがあげられている。
- 社内体制が整っていない(仕事の管理・労務管理・評価など)
- パソコンやスマホ等の機器やネットワーク環境(LAN等)の設備が十分ではない
- セキュリティ上の不安がある
これらの課題を解決することが、中小企業がテレワークを導入するにあたって重要だといえるだろう。
中小企業がテレワークを導入するために必要なこと
中小企業がテレワークを導入するために必要なことを、上で見た3つの課題のそれぞれについて見ていこう。
1. 社内体制を整える
社内体制を整えるためには、
- 情報セキュリティポリシーの策定
- 労務管理方法の検討
- 導入のための教育・研修
が必要だ。
テレワークの導入に際しては、多かれ少なかれ社内の情報が社外に持ち出されることになる。したがって、守るべき機密情報をまず明確にするとともに、機密情報を扱う対象者の範囲も明らかにすることが必要だろう。
また、テレワークを実施する際にも、労働基準法は守らなければならない。変形労働時間制やフレックスタイム制、裁量労働制、あるいは事業外みなし労働時間制などを活用し、就業規則にテレワーク勤務に関する規定を定める必要がある。
教育・研修については、テレワークの目的や必要性、テレワーク時の業務管理や評価の方法、社内・社外でのコミュニケーションの方法、およびテレワークに必要なツールの操作方法などを、対象となる社員に理解させることが重要だ。
2. パソコンやネットワークなどの環境を整備する
パソコンやネットワークなどの環境(ICT環境)整備は、ハードウェアとソフトウェアの両面が必要だろう。
ハードウェアの環境については、現在の状況を確認の上、必要に応じて新たな機器を導入することになる。社員が使用するパソコンは、会社のものをただ持ち帰ってしまえば、盗難や紛失等による情報漏えいが発生する恐れがある。「リモートデスクトップ方式」や「仮想デスクトップ方式」を使用すれば、作業内容はオフィスにある端末またはサーバに保存され、手元にデータが残らないため、セキュリティ上有利になるだろう。
ソフトウェアに関しては、以下のものが必要となる代表的なアプリだ。
・Web会議
Web会議は、Web上で会議ができるアプリで、顔を見て、声を聞きながら会議ができ、さらに必要に応じて資料の共有も可能だ。
・グループウェア
グループウェアは、社内外の関係者と情報共有をするためのアプリで、スケジュールや掲示板、ファイルなどの共有が可能になる。
・ビジネスチャット
ビジネスチャットは、テキスト文字を使用してリアルタイムで情報交換ができるアプリで、Web会議とは異なり、作業をしながらなどの手軽なコミュニケーションを取ることができる。
・オンラインストレージ
オンラインストレージは、多数のファイルを整理して共有するアプリだ。ただし、セキュリティの関係上、使用を禁止するほうがよいケースもある。
3. セキュリティ上の不安を解消する
セキュリティ上の不安を解消するには、以下の対策を講じることが有効だ。
- パスワードを複雑にし、多要素認証を使用する
- OSやソフト、アプリなどを常に最新のバージョンにアップデートする
- 不審なメールに注意し、添付ファイルは安易に開かない
- 通信を暗号化する
- パソコンなどの端末が盗難・紛失しないようにする
- 社外の人がいるところで画面を覗き見られたり、話し声を聞かれたりしないようにする
- アクシデントがあった場合の連絡手順を確認する
中小企業のテレワーク導入に関連する助成金や給付金
最後に中小企業のテレワーク導入に関連する、助成金や補助金を紹介しよう。
・IT導入補助金
経済産業省による補助金。中小企業および個人事業主がITツール導入の際に利用できる補助金。テレワーク導入(特別枠)にあたっては、補助率が最大3/4、450万円まで補助される。
参照:IT導入補助金について(令和元年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業)
・働き方改革推進支援助成金
厚生労働省による助成金。中小企業がテレワークを導入する際に、補助率1/2、最大100万円まで補助される。レンタルやリースの費用も補助の対象だ。
参照:働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)
・事業継続緊急対策(テレワーク)助成金
東京しごと財団による助成金。2020TDMプロジェクトに参加していることを条件に、テレワーク導入費用の10/10、最大250万円まで補助される。
参照:事業継続緊急対策(テレワーク)助成金のご案内
課題を適切に解決してテレワークを導入しよう
中小企業のテレワーク導入率は、大企業に比べればまだまだ低い水準だといえる。中小企業の場合には、テレワークでの対応が難しい業種や業務が多いほか、社内体制やパソコン・ネットワーク環境、セキュリティなどの課題があるからだ。
ただし、これらの課題は、適切に対処すれば解決も可能といえる。また、中小企業を対象とした補助金や助成金もあるため、これらを積極的に活用して、テレワークを導入していきたい。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)