起業するにあたり、融資を受けることを検討している人は多いだろう。起業時の資金が多いと、その分大きなリターンを期待できる。起業時に受けられる融資でおすすめなのは、公的な融資だ。公的な融資なら、比較的返済期間長く、低金利で借り入れをすることができる。この記事では、公的な融資である日本政策金融公庫の創業融資と自治体の制度融資の概要と詳細、また自己資金なしでも借り入れができるかどうかについて、詳しく解説していく。
目次
起業時の融資としておすすすめなのは?

起業時に利用できる公的な融資には、以下の2つがある。
- 日本政策金融公庫の「新創業融資」
- 各自治体の「制度融資」
それぞれの概要と、どちらがおすすめなのかを見てみよう。
日本政策金融公庫の新創業融資
日本政策金融公庫は、国が100%を出資する公的な金融機関で、主に中小企業に対して融資を行っている。日本政策金融公庫が提供する「新創業融資」は、起業時に利用できる融資だ。新創業融資では、最大3,000万円の事業資金を5~7年の返済期間で、年率1~2%の低金利で借りることができる。
新創業融資の最大の特徴は、担保・保証人ともに原則不要であることだ。仮に事業が失敗しても、個人が借金を抱える心配がないことが大きなメリットと言える。
自治体の制度融資
制度融資とは、都道府県や市区町村などの自治体と、銀行などの金融機関、および信用保証組合とが協力して行う、中小企業に対する融資のことだ。融資の申し込みを受けた自治体は、信用保証協会を保証人として、金融機関に対して融資のあっせんを行う。金融機関の貸し倒れリスクを減らすことで、中小企業でも融資が受けやすくなっている。
起業時に受けられる融資の限度額や返済期間、金利は、新創業融資と同程度だ。ただし、新創業融資では保証人は原則不要だが、制度融資では代表者の連帯保証を求められることがある。
新創業融資と制度融資はどちらがおすすめなのか?
日本政策金融公庫の新創業融資と自治体の制度融資では、起業時に受けられる融資の限度額や返済期間、金利などは同程度だ。大きな違いは、保証人の有無である。保証人が原則不要である新創業融資のほうが、メリットが大きいと言えるだろう。ただし近年は、制度融資でも保証人を求めないようになってきている。
新創業融資と制度融資では、融資が実行されるまでの期間も異なる。新創業融資では、問題なく進めば数週間から1ヵ月程度で融資が実行される。それに対して制度融資では、融資実行まで1~2ヵ月がかかることが多い。
制度融資で融資実行までに時間がかかる主な理由は、融資の関係者が多いからだ。制度融資では、自治体と保証協会、金融機関が連携して手続きを進める必要がある。また、窓口が「お役所」なので、手続きを型通りに進めなければならないという事情もある。
さらに、起業にあたって許認可が必要となる事業の場合、新創業融資なら許認可を取得する前でも融資を申し込めるのに対し、制度融資は許認可を取得してからでなければ申し込めない。許認可の取得には早くても1~2ヵ月はかかるため、この点においても制度融資が実行されるまでに時間がかかることになる。
これらを踏まえると、起業時に利用する融資としては、日本政策金融公庫の新創業融資のほうがおすすめと言えるだろう。
新創業融資の詳細
日本政策金融公庫の新創業融資の詳細を見てみよう。
融資の要件
新創業融資を受けるには、以下の3つの要件をすべて満たす必要がある。
- 起業の要件
- 雇用創出等の要件
- 自己資金要件
1. 起業の要件
新創業融資の起業の要件は、「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方」となっている。したがって、これから起業しようとする人はもちろんのこと、起業して間もない人も利用することができる。
2. 雇用創出等の要件
新創業融資を利用するためには、以下の雇用創出等の要件のいずれかに該当していなければならない。
雇用の創出をともなう事業を始める方
技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業を始める方
現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方
(1)現在の企業に継続して6年以上お勤めの方
(2)現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方大学等で習得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
(5~8 略)
前1~8までの要件に該当せずに事業を始める方であって、新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると公庫が認めた方で、1,000万円を限度として本資金を利用する方
すでに事業を始めている場合は、前1~9のいずれかに該当した方
3. 自己資金要件
新創業融資を利用するには、原則として「創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」が要件となる。
資金の使途
設備資金および運転資金
融資限度額
3,000万円(うち運転資金は1,500万円)
返済期間
運転資金は5年程度、設備資金は7年程度が基本的な期間
利率
基本利率は年利1.36~1.55%(2020年3月現在)
担保・保証人
原則不要
制度融資の詳細
制度融資の詳細を、東京都の「創業融資制度」を例に見てみよう。
利用できる人
利用できる人は、中小企業経営者または組合で、以下のすべての条件を満たす必要がある。
- 都内に事業所(住居)があり、保証協会の保証対象となる業種を営んでいること
- 事業税その他租税の未申告、滞納がないこと
- 許可、認可、登録、届出等が必要な業種については、それらの許認可等を受けている、または受けること
- 現在かつ将来にわたって、暴力団員等に該当しないこと、暴力団員等が経営を支配していると認められる関係等を有しないこと、および暴力的な要求行為をしないこと
融資の対象
- (起業前)1ヵ月以内に新たに個人で、または2ヵ月以内に新たに会社を設立して東京都内で起業する具体的な計画を持っている人
- (起業後)起業してから5年未満である中小企業者および組合
- (分社化)東京都内で分社化しようとする具体的な計画を持っている会社、分社化により設立された日から5年未満の会社
融資の条件
・資金の使途
運転資金・設備資金
・融資限度額
3,500万円(起業の場合は自己資金に2,000万円を加えた額の範囲内)
・融資期間
- 運転資金 7年以内(据置期間1年以内を含む)
- 設備資金 10年以内(据置期間1年以内を含む)
・融資利率
- 責任共有制度(信用保証協会が8割保証する契約)の場合 …年率2.5%以内
- 責任共有制度の対象外(信用保証協会が10割保証する契約)の場合 …年率2.0%以内
・担保
原則として不要
・保証人
個人は不要、法人は代表者が連帯保証人
・信用保証料補助
信用保証料の2分の1
起業時の融資で審査に通るポイントは?
起業時の融資を受けるためには、事前に審査に通らなければならない。審査に通るためには、どのようなポイントが重要なのかを見てみよう。
自己資金 ~「自己資金なし」は難しい
起業時の融資における審査において、まず重要なのが「自己資金」である。自己資金は、始めようとする事業に対する経営者の熱意や、準備を判断するための材料になるからだ。したがって、「自己資金なし」で審査に通ることは難しい。
融資の審査では、過去1年分程度の代表者の預金通帳を提出することが求められる。ここでは、自己資金をどのように貯めたのかをチェックされる。
毎月の給料の中から自己資金をコツコツ貯めてきたのであれば問題ない。しかし、ある時大金が振り込まれ、それを自己資金としようとしている場合は、一時的な借金を「見せ金」としようとしていると疑われるため、審査に通らない可能性が高くなる。
事業計画書
起業時の融資の審査で次に重要になるのは、しっかりとした事業計画書を作成することだ。金融機関は、融資したお金をきちんと返してほしいと思っている。したがって、事業計画書に記載される売上や利益などが実現可能なものであり、その中から確かに借入金の返済ができるのかを詳細にチェックすることになる。
事業計画書を作成するにあたっては、金融機関は「華々しい成功」を求めていないことを覚えておきたい。見栄えの良い数字を記載するのではなく、現実的で確実と思われる数字を記載するほうが、審査に通りやすくなるだろう。
経営者自身の信用
起業時の融資の審査では、経営者自身の信用も重要な要素だ。前述の「自己資金をコツコツと貯めてきたこと」や「事業計画書が現実的であること」も、経営者の信用をアピールする材料になる。
その他、以下のような項目が見られることもある。
- 起業しようとする事業に関する経験を会社員時代にきちんと積んできたか
- 税金や水道光熱費、携帯電話料金などを延滞せずに払っているか
- サラ金などからお金を借りていないか
- 過去にクレジットカードや住宅ローンなどの滞納歴、自己破産、債務整理などがないか
希望額
起業時の融資では、融資の希望額も審査における判断基準になる。希望額が大きくなるほど審査に通りにくくなるため、融資を申し込む際は少なめの金額を希望するほうがいいだろう。
また、資金の使途をしっかり示すことも重要だ。融資希望額が確かに事業に必要であることの根拠を、見積書などによって明らかにする必要がある。
自己資金を貯めて起業時の融資を利用しよう
起業時の融資は、公的な融資である日本政策金融公庫の新創業融資、または自治体の制度融資がおすすめだ。どちらも比較的返済期間が長く、低金利で借り入れることができる。
ただし起業時の融資を受ける際は、自己資金なしでは難しい。自己資金は、起業する経営者の熱意や準備、信用などを表すからだ。自己資金をしっかりと貯めた上で、起業のための融資を利用するようにしよう。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)