「経理」や「簿記」は会社経営で欠かせない業務の一つだ。一見すると経理と簿記は同じ意味の用語に思えるが、実は若干の違いがある。そこで今回は、経理と簿記の違いを分かりやすく解説していく。また、経営者が経理や簿記を学ぶメリット、具体的にどのくらいのレベルが必要となるかに関しても、併せてみていこう。

鈴木 裕太
鈴木 裕太(すずき・ゆうた)
横浜国立大学在学中に中小企業診断士を取得(現在は休止中)。Webメディアの立ち上げ〜売却に携わり、SEO対策をはじめとしたWebマーケティングを幅広く経験。現在はビジネスの分野に特化したライター業と、他社のメディアサイトの立ち上げ支援を行っている。また、情報サイト”BizLabo”の運営も行っており、会社経営に役立つ知識・ノウハウを伝えることにも力を入れている(月間1.5万PV:2020年1月時点)。

目次

  1. 簿記と経理の違いとは?
    1. 簿記とは
    2. 経理とは
  2. 経理をこなすには簿記何級が必要?
    1. 日商簿記2級レベルがあれば経理を問題なくこなせる
    2. 日商簿記3級レベルでも最低限の経理はこなせる
    3. 経営者には日商簿記1級レベルの知識は基本的に不要
  3. 経営者が経理や簿記を勉強する3つのメリット
    1. 1:自分自身で経理の仕事をこなせる
    2. 2:会社の財務諸表を正確に読めるようになる
    3. 3:自社の強みや改善点を把握し、戦略に活かせる
  4. 簿記や経理の知識を学び、会社経営に役立てよう

簿記と経理の違いとは?

経理と簿記の違いとは?経営者が経理や簿記を学ぶ3つのメリットも解説
(画像=Michail Petrov/stock.adobe.com)

はじめに「簿記」と「経理」という用語の違いを理解していくために、各用語の意味を簡単に解説する。

簿記とは

簿記とは、毎日の取引で生じる資産や負債、損益の動きなどを記録・整理する行為である。企業にとって必須となる確定申告を行うには「1年間でどのくらいの損益や資産・負債の変動があったか」を確認することが必要だ。そのために必要な「決算書」を作成する上で不可欠なのが簿記である。なぜなら決算書は、日々記録・整理した帳簿の内容をもとに作成するからだ。

簿記には「簡易簿記(単式簿記)」と「複式簿記」の2種類があり、それぞれに記帳(帳簿をつけること)の方法は異なる。簡易簿記は、取引で生じたお金の動きについて一つ一つ日付・項目(勘定科目)・入金額・支出額・残高などを記録する。家計簿やお小遣い帳とほぼ同じ方法で記帳できるため、特に必要なスキルはない。

一方で複式簿記は、一つの取引を「原因」と「結果」に分けた上で、それぞれを「借方」と「貸方」に分けて記載する。簿記に関する専門的な知識が必要となるものの、より的確に経営状況を記録・整理できるのが複式簿記のメリットだ。そのため、一般的な企業では複式簿記が用いられている。

経理とは

経理とは「経営管理」という言葉の略称だ。経営管理とは、経営を円滑に行うためにヒトやモノ、カネなどの経営資源を適切に管理する業務を意味する。そのため、本来の言葉の意味合いとしては、会計や人事、財務、税務、生産など、あらゆる業務を総合的に管理する業務といえる。

しかし、「経営管理」ではなく「経理」といった場合、あくまで会計に関する業務全般を行う部門や職種を意味することが一般的だ。具体的には、簿記の知識を使って日々の取引を記録・整理したり、買掛金や売掛金の管理、決算業務を行ったりすることなどが一般的な経理の業務である。規模の小さい中小企業の場合、給与計算や税金の納付といった会計以外の業務を担うことも多い。

つまり簿記とは、経理の業務で用いるスキルの一部分というわけだ。簿記が会計の実務で用いるスキルを意味する一方で、経理は会計や税務、給与計算などの実務全般、またはそれを担う職種・部門を意味することが多い。

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経理をこなすには簿記何級が必要?

経理の業務をこなすには、どのくらいのレベルの簿記知識が必要となるのだろうか。レベル感を測る上では「日商簿記試験」を基準に用いるのが一番分かりやすい。ここでは、経理をこなす上で必要となる日商簿記試験のレベルを解説していこう。

日商簿記2級レベルがあれば経理を問題なくこなせる

結論からいうと、日商簿記2級レベルの知識があれば経理の業務は一通り問題なくこなすことが可能だ。

日商簿記2級の試験では、日々の帳簿付けや決算書作成などの業務で必要な「商業簿記」の技能と部門別や商品別の原価計算などを記録する「工業簿記」の技能が問われる。日商簿記2級レベルの知識を身につけていれば、容易に取引内容を記録・整理できるだろう。

また、コストのムダや業務の効率性を把握したり、決算書から経営状況を適切に把握したりできる。経理に必要なスキルを網羅的に習得している証明にもなるため、経理部門の就職・転職では最も求められるレベルだ。経営者がこのレベルの知識を持っていれば、自分の力だけで日々の経理作業はもちろん財務分析やそれを踏まえた収益性の改善なども実行できるだろう。

日商簿記3級レベルでも最低限の経理はこなせる

2級と比べると難易度は低いものの、日商簿記3級レベルの知識だけでも最低限の経理業務はこなせるだろう。日商簿記3級の試験では、基本的な仕訳の行い方や決算書の作り方など簿記の基本的な知識が網羅的に出題される。日商簿記3級に合格できるレベルの知識があれば、小規模の企業や個人事業主レベルの経理ならば十分だろう。

日商簿記3級で問われる範囲は、決算書に書かれている内容の理解や利益の計算方法などビジネスパーソンにとっては不可欠の知識だ。そのため、経営者や経理部門に限らずビジネスパーソンならば最低限日商簿記3級レベルの知識は持っておいたほうが良いといえる。

自分で経理処理を行わない経営者でも取引先との商談や資金調達をスムーズに進めるために日商簿記3級の知識は最低限習得しておくのがおすすめだ。むしろ3級レベルの知識がないと、自身が経営する会社の財務状況や利益を正確に把握するのも難しくなり、経営判断に支障をきたすリスクもあるため注意が必要だ。

経営者には日商簿記1級レベルの知識は基本的に不要

日商簿記の中でも1級は最も難易度が高い。試験では、連結会計や会計学の知識、難解な管理会計などマイナーかつレベルの高い問題が多く出題される。一般的な中小企業ではほぼ不要な知識が問われるため、経営者には日商簿記1級レベルの知識は基本的に不要だ。

1級は出題範囲が企業会計全般にわたる上に、全てを習得するには1,000時間前後の学習が必要といわれている。簿記の学習に1,000時間費やすなら、本業の活動に費やしたほうがはるかに収益に直結するだろう。

上場を本格的に目指す経営者にとっては、役に立つ知識もいくつか出てくるため、「勉強しても完全に無駄」ということはない。しかし、よほど時間に余裕があるわけでない限り、1級レベルの知識を本格的に学習する必要はないだろう。仮に日商簿記1級レベルの知識が必要となった場合には、公認会計士などの専門家にサポートしてもらえば良いのだ。

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経営者が経理や簿記を勉強する3つのメリット

経営者にとって大局的な意思決定や創造性を発揮するのがメインの業務となる。しかし、経理や簿記を勉強するといくつかのメリットを得ることが可能だ。具体的には、経理や簿記を学ぶことで以下に挙げた3つのメリットが期待できる。

1:自分自身で経理の仕事をこなせる

経営者が経理・簿記を学ぶ1つ目のメリットは、自分自身で経理の仕事をこなせることだ。従業員を雇うか外注すれば経営者自身が経理の仕事をこなす必要はない。しかし、従業員を雇った場合、少なくとも20万円程度の固定費が毎月発生してしまう。よほど経理の業務が多い場合は良いだろうが、ほとんどない状態で固定費20万円を支払うのは正直もったいない。

また、経理を外注する場合、自社の業績や社内情報が外部に漏えいするリスクが高まる。たとえ守秘義務契約を締結しても、相手側の過失により流出するリスクは少なからずあるのだ。経営者自身が簿記を学んで経理を行えば、こうしたリスクやデメリットを避けることができる。

経理の業務量が少ない場合や情報漏えいを何としても避けたい人にとっては、簿記や経理を学ぶメリットは大きいといえるだろう。

2:会社の財務諸表を正確に読めるようになる

財務諸表を正確に読めるようになる点は、経営者が簿記や経理を学ぶ最大のメリットだろう。簿記3級レベルの知識を習得すれば、利益や費用がどのくらい発生しているかを把握できるようになる。また簿記2級レベルとなれば、自社の損益分岐点や売上原価などを計算し、財務的な安全性やムダを把握することが可能だ。

さらに自社の財務諸表のみならず、当然取引先や投資先の財務諸表も見ることもできる。例えば、取引する予定の企業の損益計算書や貸借対照表を確認すれば「その企業と取引しても問題ないか」を合理的に判断することができるだろう。

つまり、簿記の知識を習得すれば会社の財務諸表をもとに妥当な経営判断を下せるようになるわけだ。上場を目指すような経営者ならば、間違った経営判断を行わないためにも簿記や経理の基礎知識はしっかりと身につけておくべきである。

3:自社の強みや改善点を把握し、戦略に活かせる

前項で述べたメリットと重複するが、自社の強みや改善点を把握し、それをもとに戦略を構築できる点も経営者が簿記や経理を学ぶ大きなメリットの一つだ。例えば、貸借対照表や損益計算書が読めれば経営分析を行うことも可能である。経営分析とは、財務的な情報から企業の安全性や収益性、効率性などを分析する手法のことだ。

具体的には、短期的な安全性ならば流動比率、本業での収益力ならば営業利益率といった指標を用いる。こうした指標を計算すれば自社の強みと弱みを的確に把握し弱みの補強や強みの強化といった戦略を的確に実行できるようになるだろう。また、CVP分析ができれば、赤字にならないために最低限必要な売上高(損益分岐点売上高)を把握したり、黒字化するために改善したりする点(固定費の削減など)を明確にできる。

ここで挙げたメリットは一部に過ぎず、自社にとって最適な戦略を策定する上で役に立つ簿記や経理の知識はこれ以外にも少なくない。合理的な戦略により事業を成長させる上で、簿記や経理の知識は非常に有用だといえるだろう。

簿記や経理の知識を学び、会社経営に役立てよう

今回紹介した通り、簿記の知識や経理のノウハウは経営者にとっても役に立つものである。自身で会計分野に関する業務をできるのはもちろん、より合理的に戦略策定や現状分析を実施できる点も簿記や経理を学ぶ大きなメリットの一つだ。事業を今後大きく成長させたいと考える経営者は、簿記や経理を学び、より一層合理的な思考を身につけてはいかがだろうか。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)