免税事業者に該当しない限り、どのような業種でも納める必要がある消費税。この消費税を支払い過ぎた場合に、その事業者は「還付金」を受け取れることをご存じだろうか。
業種にもよるが、消費税の還付金はときに多額に上ることがある。還付金が経営に影響を及ぼすケースも考えられるため、経営者はしっかりと概要を理解しておくことが重要だ。
そこで本記事では、消費税の還付金の概要に加えて、対象となるケースや受け取るまでの流れをまとめた。特に海外進出を目指している経営者、輸出業を営んでいる経営者などは、これを機に正しい知識をしっかりと身につけておこう。
目次
消費税の還付金とは?

消費税の還付金とは、消費者から「預かった消費税額」より「支払った消費税額」が大きい場合に、その超過分が返金される制度のことだ。本来納付するべき消費税は以下の式によって算出されるが、この式の計算結果がマイナスになった事業者は、還付金を受け取れる可能性がある。
本来納付するべき消費税額=(預かった消費税額)-(支払った消費税額)
つまり、還付金は消費税の「支払超過」が発生した場合に受け取れるものだが、すべての事業者が対象になるわけではない。所定の条件を満たさない限り、還付金の対象事業者には含まれないため、まずは以下でその条件をチェックしておこう。
〇消費税の還付金の対象に含まれる条件 【1】前々事業年度の課税売上高が、1,000万円を超える事業者(※) 【2】創業から2年度以内で、期首時点での資本金が1,000万円以上の事業者 【3】消費税額の計算方法として、原則課税を採用している事業者 (※前々事業年度が1年未満の事業者については、課税売上高を年換算した金額が1,000万円を超えることが条件) |
上記の【1】と【2】は、「課税事業者」の要件とも言い換えられる。つまり、消費税の還付金は、原則課税(一般課税)を採用している課税事業者が対象ということだ。免税事業者に該当する個人事業主などは、仮に支払った消費税額が多くても対象には含まれないため注意しておきたい。
なお、近年では消費税をクレジットカード納付で済ませる事業者も見受けられるが、仮に現金ではなくクレジットカードで支払いをしても、上記の条件を満たせば還付対象には含まれる。
消費税の還付対象になる3つのケース
消費税の還付対象になるケースは、「預かった消費税額」と「支払った消費税額」の関係性に注目すると分かりやすい。「預かった消費税額<支払った消費税額」を満たす場合に支払超過となるため、預かった消費税額が減るか、もしくは支払った消費税額が増えるような状況になれば、還付金を受け取れることになる。
では、消費税の還付対象になる具体的なケースを、以下で詳しくチェックしていこう。
1.大幅な赤字になった場合
売上が大きく減少したり、創業当初で仕入や経費がかさんだりした場合は、消費税の還付対象に含まれる可能性がある。売上が減少すると預かった消費税額が減り、経費がかさむと支払った消費税額が増加するためだ。
つまり、経営が大幅な赤字になった場合は、還付金を受け取れる可能性が高い。ただし、消費税の課税対象ではない以下の費用については、消費税還付の計算からは除外されるので、安易に「赤字経営=消費税の還付」と覚えるべきではない。
〇消費税還付の計算から除外される費用
- 従業員に支払った給与
- 事業税や固定資産税をはじめとした租税公課
- 国民年金などの社会保険料
- 生命保険料などの保険料
- 国外取引により支払った経費 など
還付金を受け取れるかどうか気になる場合は、上記の費用を除外して実際に計算をしてみることが望ましい。「預かった消費税額」と「支払った消費税額」を算出し、2つの金額を細かく比較しておこう。
2.大規模な設備投資を行った場合
大規模な設備投資をすると、支払った消費税額が一気に増大するため、還付金を受け取れる可能性が高まる。大規模な設備投資とは、たとえば不動産や機械、車両の購入などが該当する。
ただし、以下で挙げる2つのケースは対象外となるので注意しておきたい。
- 土地を購入する場合
- 不動産賃貸業のみを営んでいる場合
不動産賃貸業のみを営む事業者が還付対象から外されているのは、家賃収入が非課税であるためだ。以前は自動販売機などの購入により、消費税の還付を受ける賃貸オーナーも見られたが、税制改正の影響で2020年現在は還付を受けることが難しくなった。
3.輸出業を営んでおり、売上の多くが免税取引の場合
日本の消費税は海外で消費されるモノには課税されないため、輸出取引は消費税が免税、つまり「免税取引」として扱われている。この免税取引の割合が多い輸出業者は、必然的に預かった消費税額が減少するので、還付対象に含まれる可能性が高い。
ちなみに輸出業者であっても、国内の取引で発生した経費(仕入れなど)については、そのすべてが消費税の課税対象となる。したがって、売上の大部分を免税取引が占めている業者の場合、支払った消費税のほとんどが還付されるようなケースも存在する。
消費税の還付を受けるための手続き
ここまでは、消費税の還付対象になる条件やケースを詳しく解説してきた。しかし、仮に上記の条件・ケースに該当しても、所定の手続きを済ませなければ還付金は受け取れない。
法人の場合は、事業年度終了の翌日から2ヶ月以内に、税務署長に以下の3つの書類を提出する必要がある。
税務署長に提出する書類 | 概要 |
消費税及び地方消費税の確定申告書 | 事業者の基本情報に加えて、計算した消費税額などを記載する書類。 |
付表2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表 |
課税売上額や免税売上額などから、課税売上割合などを計算するための用紙。 |
消費税の還付申告に関する明細書 | 消費税が還付申告となった主な理由や、仕入れの明細などを記載する書類。 |
いずれの書類も、国税庁のホームページでテンプレートや書き方が公開されているため、還付対象に含まれる事業者は余裕をもってチェックしておきたい。ちなみに、個人事業主も手続きの方法は同様だが、書類の提出期日は「対象となる年の翌年3月31日まで」となるので、法人の期日と混同しないように注意しておこう。
消費税の還付金はいつ受け取れる?受け取り方法は?
消費税の還付金が支払われる時期は、実は厳密には決められていない。各書類の確認や審査、支払手続きなどにある程度の時間を要するため、一般的なケースでは手続きの「おおむね1ヶ月~2ヶ月後」に還付される。したがって、還付金を事業資金として組み込んでいる場合は、できるだけ早めに手続きを済ませておくことが重要だ。
また、還付金を受け取る方法としては、以下の2つが用意されている。
還付金を受け取る方法 | 概要 |
【1】本人名義の預貯金口座への振り込み | 確定申告の際に指定した口座が対象。手続きの1ヶ月~2ヶ月後に、指定口座に還付金が振り込まれる。 |
【2】ゆうちょ銀行または郵便局での受け取り | 最寄りのゆうちょ銀行の店舗、もしくは郵便局に直接出向いて受け取る方法。 |
なお、上記【1】を選択するケースでは、指定口座の設定に注意しておきたい。たとえば、名義に屋号が含まれる場合や、以下に該当しない指定口座を選んだ場合には、振り込みに対応できない可能性があるので、事前の確認が必要になる。
【対象に含まれる指定口座】
- 銀行
- 信用金庫、信用組合
- 労働金庫
- 農業協同組合
- 漁業協同組合およびゆうちょ銀行
スムーズに還付金を受け取りたい場合は、上記【2】の方法を選ぶか、もしくは口座を開設している金融機関に確認を取っておこう。
会計処理の方法にも注意!方式による違い
還付金を受け取った後の会計処理は、普段採用している経理方式によって変わってくるため要注意だ。還付を受けた後もスムーズに対応できるように、「税抜経理方式・税込経理方式」の違いを以下でしっかりと押さえていこう。
1.税抜経理方式
消費税を費用・収益として扱わない「税抜経理方式」では、以下のような形で仕訳を行う。
〇決算時の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仮受消費税 | 〇〇 | 仮払消費税 | 〇〇 |
未収消費税 | 〇〇 | ||
雑収入 | 〇〇 |
〇入金時の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 〇〇 | 未収消費税 | 〇〇 |
上記だけでは記載内容が少し分かりづらいため、各項目の意味を以下で簡単にチェックしておこう。
- 仮受消費税…課税売上に対する消費税
- 仮払消費税…課税仕入れに対する消費税
- 未収消費税…還付金の金額
- 雑収入…端数による不一致が生じた場合に、金額を調整するための項目
- 普通預金…指定口座で受け取った還付金の金額
この中で特に扱いが難しいのは、端数調整に使われる「雑収入」だ。雑収入は、「還付金の額」と「仮受消費税と仮払消費税の差額」の間に不一致が生じた場合に、金額を調整する項目として一時的に利用する。 また、実際に還付金を受け取った後には、入金時の仕訳で貸方に「未収消費税」を記載し、減少させることも覚えておきたいポイントだ。
2.税込経理方式
消費税を費用・収益として考える「税込経理方式」では、仮受消費税や仮払消費税の項目を使用しない形で会計処理を行う。
〇決算時の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
未収消費税 | 〇〇 | 雑収入 | 〇〇 |
〇入金時の仕訳
借方 |
金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 〇〇 | 未収消費税 | 〇〇 |
上記を見てわかる通り、借受消費税・仮払消費税の項目を使わない影響で「端数による不一致」が生じないため、税込経理方式の会計処理は比較的シンプルだ。ただし、税抜経理方式と同じように、実際に還付金を受け取った後には未収消費税を減少させる必要がある。
消費税の還付金は多額に上ることも!将来を見越して万全の準備を
「消費税の還付金」と聞くと少額をイメージするかもしれないが、事業者によっては多額の還付を受けられることがある。特に輸出業を営んでいる場合は、還付金が経営状態を左右する可能性もあるため、受け取るまでの流れをしっかりと理解しておくことが重要だ。
また、現時点で条件を満たしていなくても、海外進出を狙っている事業者、外国企業とのつながりを強めたい事業者などは、将来的に還付対象に含まれる可能性がある。その時になってから困らないように、これを機に還付対象の条件を確認し、必要な準備はしっかりと済ませておきたい。
文・片山雄平(フリーライター・編集者)