減価償却の「残存価額」がどのようなものなのか、なぜ廃止されたのか、気になっている経営者は多いだろう。2007年までは、減価償却は10%の残存価額を残して行うこととなっていた。残存価額とは、耐用年数が経過しても、残っている価値のことだ。この記事では、残存価額とは何か、なぜ廃止されたのか、また新税制における減価償却費の計算方法を詳しく解説していこう。

目次

  1. 減価償却の残存価額とは?
  2. 税制改正により残存価額はゼロとすることに
  3. 残存価額が廃止された理由は?
  4. 償却可能限度額とは?
  5. 残存価額を0円とした場合の減価償却費の計算方法
    1. 定額法による計算方法
    2. 定率法による計算方法
  6. 減価償却は残存価額を気にせず計算しよう

減価償却の残存価額とは?

減価償却の残存価額とは?税制改正により残存価額はゼロとして計算!
(画像=tippapatt/Adobe Stock)

残存価額とは、法定耐用年数が経過した後に残る減価償却資産の価値のことだ。一般に固定資産は、法定耐用年数で定められている期間が経過しても、まだ価値が残っているケースが多い。

たとえば、建物や店舗などは法定耐用年数が過ぎれば価値が大きく低下するが、「改装して使用したい」という人に譲渡できることもあるだろう。また車や機械は、法定耐用年数を過ぎたものでも輸出したり、部品として販売したりすることで利益を得られることがある。

残存価額は、このようなケースを考慮して設定されるものである。したがって、本来は個別に検討されるべきものだが、2007年3月31日までは一律で「取得価額の10%」とすることになっていた。

したがって、2007年3月31日以前に購入した減価償却資産については、取得価額の90%にあたる金額から減価償却費を計算することとなっていた。

税制改正により残存価額はゼロとすることに

この残存価額は、2007年の税制改正で廃止された。2007年4月1日以降に取得する減価償却資産については、残存価額をゼロ(0円)として減価償却費を計算する。

したがって、2007年3月31日までに取得した減価償却資産については「旧定額法」「旧定率法」、4月1日以降に取得した減価償却資産については「定額法」「定率法」によって減価償却費を計算することになり、現在は新旧の計算法が併存している。

ただし「定額法」「定率法」で減価償却費を計算する際は、最後に1円だけ残すこととなっている。これは「残存簿価」あるいは「備忘価額」と呼ばれるもので、その資産が残っていることを帳簿に記載するためだ。

ちなみに、残存簿価と残存価額はまったく異なる概念だ。税制改正によって、残存価額が10%から1円になったのではない。残存価額は、旧税制においては毎年の減価償却費を算出するために必要だ。それに対して残存簿価は、最終年度に1円を残して償却するというだけのことだからだ。

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残存価額が廃止された理由は?

2007年の税制改正により残存価額が廃止された理由は、2つあると言われている。第1の理由は、国際的な税制に適合させるためだ。減価償却における残存価額は、主要国の税制には設けられていなかった。日本においても残存価額を廃止することで国際的な競争の条件を確保し、企業の競争力を高めることが期待された。

第2の理由は、設備投資を促進することである。残存価額があり、減価償却が終わった資産が帳簿上に価値を有する場合は、企業がその資産を温存する傾向が強まることになる。残存価額をゼロとすることにより、生産設備の新陳代謝を加速することも大きな狙いとされていた。

償却可能限度額とは?

ここで、「償却可能限度額」にも触れておこう。残存価額が10%であるということは、本来ならば「取得価額の10%まで減価償却できる」ということだ。ところが実際は、旧税制では償却可能限度額は95%とされ、取得価額の5%まで減価償却することが認められていた。つまり、償却の限度額について取得価額の10%と5%が併存していたのである。

減価償却費の計算にあたっては、まず残存価額を10%とし、取得価額の90%の金額から減価償却費を算出して、法定耐用年数の期間中に減価償却していく。残存価額まで減価償却が終わったら、翌年にさらに5%分を追加で減価償却する。

残存価額の10%と償却可能限度額の5%とが併存すると、減価償却費の計算は上のようにやや複雑になる。「いっそのこと、残存価額を5%にすれば良かったのではないか」と思ってしまう。残存価額を5%にせず10%のままにしたのは、「税収の落ち込みを避けるため」と言われている。

残存価額は、減価償却費を算出するために使われる。残存価額を10%から5%に変更すると、定率法の場合は、早期に多額の減価償却費が計上されることになり、その分利益が圧縮されて税収が落ち込むことになる。

償却可能限度額が5%になったのは、1964年だ。この時も、減価償却後の価額を低減することにより、設備投資を活性化し企業の競争力確保に資することを目的としていた。残存価額10%と償却可能限度額5%の併存は、企業の競争力確保と税収を両立するための苦肉の策だったのである。

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残存価額を0円とした場合の減価償却費の計算方法

それでは、残存価額を0円とした場合の、新税制における減価償却費の計算方法を、定額法と定率法のそれぞれで見てみよう。対象の償却資産は、以下のとおりとする。

取得価額 100万円 取得期日 事業年度の初日 法定耐用年数 10年

取得価額 100万円
取得期日 事業年度の初日
法定耐用年数 10年

※ 取得期日を「事業年度の初日」としたのは、事業年度の中間で資産を取得した場合に月割り計算を行う必要があるため、計算が複雑になるからである。

定額法による計算方法

定額法は、減価償却の総額を法定耐用年数で割った金額を毎年償却していく方法だ。新税制では残存価額は0円なので、減価償却費の総額は取得価額と同じになる。したがって、定額法の減価償却費は取得価額を法定耐用年数で割ったものになる。

減価償却費(定額法)= 取得価額 / 法定耐用年数

「1/法定耐用年数」は「償却率」と呼ばれる。したがって、定額法の減価償却費は取得価額に償却率をかけたものであるとも言える。

減価償却費(定額法)= 取得価額 × 償却率

定額法は計算法がシンプルであり、毎年同じ金額を減価償却していくため、わかりやすいことがメリットだ。個人事業主の所得税申告にあたっては、原則として定額法を使用することになっている。

ただし後述する定率法は、定額法と比較して早期に多くの減価償却費を計上できるため、節税効果は高くなる。機械装置、車両運搬具、器具備品に関しては、法人は原則として定率法を採用することになっており、所得税でも税務署に届け出ることで定率法を選択することができる。

上の例について、定額法の減価償却費を計算してみよう。

法定耐用年数が10年なので、償却率は、

1 / 10年 = 0.1

となる。したがって毎年の減価償却費は、

減価償却費(定額法)= 100万円(取得価額)× 0.1

で計算され「10万円」になる。定額法においては、毎年10万円を減価償却していく。

ただし10年目だけは、別の計算をしなくてはならない。残存簿価の「1円」を残さなければならないからだ。最終年度の減価償却費は、10万円から1円を引いた「9万9,999円」を減価償却することになる。

定率法による計算方法

次に、定率法による減価償却費の計算方法を見ていこう。定額法が「毎年同じ金額」を減価償却するのに対し、定率法では「毎年同じ割合」を減価償却する。減価償却をまだ行っていない「未償却残高」に、既定の「定率法償却率」をかけて減価償却費が算出される。

減価償却費(定率法)= 未償却残高 × 定率法償却率

「未償却残高」は、初年度には「減価償却の総額」になる。新税制では残存価額が0円なので、減価償却の総額は取得価額と一致する。

「定率法償却率」は、2012年4月1日以降に取得した減価償却資産については、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表十」に、耐用年数ごとに記載されている。 ⇒ 参考「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表十」]

今回の例である「耐用年数10年」の場合は、定率法償却率は上の表によれば「0.2」である。

ただし、この計算方法は減価償却費が「償却保証額」を上回っている間の話である。償却保証額とは、

取得価額 × 保証率

で計算され、同じく上の表に耐用年数ごとに記載されている。耐用年数が10年の場合、保証率は「0.6552」だ。したがって償却保証額は、

償却保証額 = 100万円 × 0.6552(償却保証額)

で計算され、「6万5,520円」となる。

減価償却費が償却保証額を下回った場合は、定率法による減価償却費の計算方法が変わり、

減価償却費(定率法) = 改定取得価額 × 改定償却率

で計算される。

「改定取得価額」とは、定率法による減価償却費が償却保証額を下回った年度の未償却残高のことだ。「改定償却率」も、上の表に耐用年数とともに記載されている。耐用年数が10年の場合の改定償却率は、「0.25」だ。

途中で計算方法が変わるのは、同じ割合だけ償却していく定率法では、年数が経つにつれて償却額が少なくなり、同じ計算方法では永遠に償却が終わらないからだ。

上の例で、1年目の減価償却費は、

減価償却費(定率法)= 100万円(取得価額)× 0.2(定率法償却率)

で計算され、「20万円」となる。2~6年目は、

(100万円 - 前年までの償却費の合計額)× 0.2(定率法償却率)

で計算される減価償却費を計上していく。

7年目になると、減価償却費は「5万2,429円」となる(計算プロセス省略)。これは、上で計算した償却保証額「6万5,520円」を下回るため、7~9年目までは前述の、

減価償却費(定率法)= 改定取得価額 × 改定償却率

で計算していく。改定取得価額は、7年目の未償却残高「26万2,144円」となるから(計算プロセス省略)、7~9年目までの減価償却費は、

減価償却費(定率法)= 26万2,144円(改定取得価額)× 0.25

で、「6万5,536円」ずつ計上していく。

10年目の減価償却費を計算すると、やはり「6万5,536円」となる。ただし、ここでも1円の残存簿価を残さなければならない。したがって、6万5,536円から1円を差し引いた「6万5,535円」が10年目の減価償却費となる。

減価償却は残存価額を気にせず計算しよう

減価償却の残存価額は、「国際的な税制に適合しない」「企業の競争力を低下させる」「償却可能限度額と併存したために計算方法が複雑になる」などの理由で廃止された。2007年4月1日以降に取得した資産については、残存価額を気にすることなく減価償却費を計算できる。節税効果もある減価償却費は、正しく計算して確実に計上していこう。

文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)