小規模なバーでは、経営者が1人で店を回していることもある。その影響で、「バーは手軽に開業できそう」と考えている方は多いはずだ。
しかし、実際にはそんな簡単な話ではなく、バーの開業前には知っておくべきことが山ほどある。バー開業を検討している方は、必要な準備や資格・届出に加えて、経営を成功させるポイントをチェックしておこう。
目次
バーの開業は儲かる?原価率と売上の目安

バーの開業を検討している段階で、最も気になるポイントと言えば「本当に儲かるのか?」という点だろう。もちろん、成功する店もあれば失敗する店も存在するが、成功率を冷静に分析するために「原価率」と「売上の目安」は事前に知っておきたい。
バーの原価率はどれくらい?
まずは原価率についてだが、一般的な飲食店の原価率がおおむね30%であるのに対し、バーの原価率は「15%~25%」と言われている。食材の原価率はどこも30%~35%ほどだが、バーはアルコール類を中心に提供する店が多いため、レストランなどに比べると原価率が低い。
では、居酒屋と比較した場合はどうだろうか。居酒屋もドリンクの比率は高いが、実は主力商品の原価率がやや高く、生ビールは約40%、刺身に関しては50%を超えてしまうケースもある。つまり、同じようなサービスを提供する居酒屋と比べても、バーの原価率は低いと言えるだろう。
バーの売上の目安は?
バーの売上は、店の規模や立地、提供するメニューなど、さまざまな条件によって変わってくる。そのため、売上の目安を厳密に示すことは難しいが、以下では客単価などの前提条件を設けて、小規模なバーの売上を計算してみた。
〇前提条件 ・客単価…2,500円 ・平日客数…15人 ・休日客数…22人 ・営業日数…平日は18日、休日は8日 ・面積…10坪 〇売上のシミュレーション 上記をもとに考えると、1ヶ月間の売上は以下のように計算できる。 平日の売上=2,500円×15人×18日=675,000円 休日の売上=2,500円×22人×8日=444,000円 1ヶ月間の売上=1,115,000円 |
一般的な飲食店では、1坪あたり最低でも月10万円の売上が必要とされている。上記のシミュレーション(1坪あたり月11.15万円)ではこの値をやや上回っているが、バー特有のピークタームの遅さや回転率の低さを考えると、経営を安定させるハードルは決して低くはない。
したがって、本記事の後半でも解説する「成功に導くポイント」を意識し、常に工夫をとり入れながら経営にあたる姿勢が必要になる。
バーを開業するための費用一覧
バーの開業にかかる初期費用は、500万円~700万円が目安とされている。初期費用は工夫次第で抑えられるが、そのためには各費用をしっかりと把握しておくことが必要だ。
そこで以下では、バーの開業時に発生する費用をまとめた。
バーの開業時に発生する費用 |
概要 |
物件取得費 | 初期費用として保証金や不動産仲介手数料などが発生するため、家賃の8ヶ月分~12ヶ月分の初期費用が必要になる。家賃20万円の物件では、160万円~240万円が目安。 |
設備工事費(内装・外装を含む) | 物件の状況やこだわり次第で、金額が大きく変わってくる費用。1坪あたり約35万円が目安となるが、居抜き物件を利用すればコストを大きく抑えられる。 |
備品・消耗品費 | 食器、グラス、インテリア、照明装置、メニュー、名刺、インターネット設備などを購入するための費用。ひとつひとつの負担金額は少ないが、積み重ねると多額にのぼる可能性もあるので、事前にしっかりと見積もっておくことが重要。 |
宣伝広告費 | ホームページの開設費やチラシ代など。 |
上記でまとめた4つの費用のほか、「運転資金」が必要になる点も忘れてはいけない。毎月発生するコスト(仕入れ、人件費、光熱費など)の3ヶ月分と考えれば、少なくとも200万円ほどの運転資金が必要だ。
したがって、初期費用が500万円~700万円かかるという点は決して大袈裟ではなく、場合によっては1,000万円近くの費用がかかるケースもある。潤沢な資金がない場合は、「どの部分を妥協できるか」「どのコストを抑えるか」などを意識しながら、初期費用を少しでも抑えられる計画を立てていこう。
バーの開業に必要な資格とは?
店舗や仕入れ先を確保したとしても、「資格」がなければバーは開業できない。必要な資格を用意しておかないと、将来的に行政指導や罰則を受けるなど、面倒な事態に発生してしまうため注意が必要だ。
バーの開業に必要な資格としては、以下の2つが挙げられる。
1.食品衛生責任者
飲食店を開業する場合は、必ず「食品衛生責任者」の資格が求められる。この資格は約半日の講習を受ければ取得できるため、取得のハードルはそこまで高くない。
ちなみに、講習は各都道府県で定期的に開催されており、エリアによっては複数の会場で実施されるので、スケジュール面も調整しやすいだろう。
2.防火管理者
バーの収容人数が30人以上の場合は、「防火管理者(甲種)」を取得して消防署へ届け出る必要がある。講習の最後には効果測定が実施されるものの、基本的には講習を受ければ合格できる内容であるため、こちらの資格もハードルはそれほど高くない。
ただし、講習は2日間かけて実施されるので、スケジュールをしっかりと確保しておくことが重要だ。
バーの開業に必要な許可申請とは?押さえておきたい4つの届出
経営後の思わぬトラブルを回避するには、「各種届出」もしっかりと済ませておくことが重要だ。特に以下で紹介する4つは、多くのバーに求められる届出となるので、事前にしっかりと概要を押さえておきたい。
1.飲食店営業許可
アルコール類をメインに提供する店舗であっても、飲食物を提供する場合は「飲食店営業許可」を取らなくてはならない。この届出は、申請から許可証の取得までに日数がかかるため、遅くても「開業の10日前まで」には手続きを済ませることが重要だ。
なお、申請書に記載する氏名(営業者)については、後述の「深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出」と同じ内容を記載する必要がある。
2.深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出
この届出は、午前0時以降に酒類をメインに提供する店舗に対して申請が義務づけられているもの。ラーメン屋のように主なメニューが「通常主食」であれば申請の義務はないが、ほとんどのバーはアルコール類を中心に提供しているため、事前にしっかりと届出をしなくてはならない。
申請の手続きは警察の生活安全課で行い、営業所の情報を記載した届出書を提出する。仮にこの届出を忘れると、風俗営業法違反により営業停止の処分を受ける恐れがあるので細心の注意が必要だ。
3.防火管理者選任届出
前述でも触れた、収容人数が30人以上の飲食店に対して義務づけられている届出。対象に含まれる店舗は防火管理者を選任し、管轄の消防署に届け出る必要がある。
4.特定遊興飲食店営業許可
飲食物に加えて、ダーツやカラオケ、音楽ライヴ、トークショーなどの「遊興(ゆうきょう)」を提供する場合に必要となる届出。経営者によっては「自由なサービスの一種」と考えるかもしれないが、遊興を提供する形で無許可営業をすると、罰金刑や懲役刑に科せられるので要注意だ。
サービスが遊興に該当するか分からない場合は、事前に警察署などに確認を取っておくことが望ましい。ちなみに、この届出は非常に細かく要件が定められているので、遊興を含んだ形でのバー経営を検討している経営者は、物件選びの段階からこの届出を強く意識しておこう。
バーの開業を成功に導く3つのポイント
最後に、バーの開業を成功に導くポイントを見ていこう。細かく見ればさまざまなポイントがあるが、以下では特に押さえておきたい点を3つピックアップした。
1.必要なものを把握し、過不足なくそろえる
スムーズにバーの営業を始めるには、店舗以外にも多くのものを揃えなくてはいけない。事業計画・資金計画にも関わってくる部分なので、必要なものを以下でしっかりと確認しておこう。
ジャンル |
必要なもの |
厨房関係 | 冷蔵庫(冷凍庫)、製氷機、調理台、シンク、コンロ、調理器具、食器棚、食器、食品棚、清掃用具、ゴミ箱、洗剤(除菌用品) |
設備関係 | 排水設備、換気設備、空調、照明設備、炊飯器や電子レンジなどの電化製品、看板 |
客室関係 | イス、テーブル、カウンター、電話(FAX)、陳列棚(お酒用)、おしぼり(タオルウォーマー)、コースター、清掃用品 |
会計・事務関係 | レジ(レジロール)、カードリーダー、伝票、領収書、釣り銭用トレー、小型金庫、パソコン、電卓、筆記用具、クレジットカードの決済環境 |
ほかにも、店舗によってはコンセプトに沿ったインテリアや、規模が大きければ食器洗い機などが必要になる。従業員やお客の動きを実際に予測しながら、必要なものをひとつずつメモなどにまとめておくことが大切だ。
また、一般的なバーではクレジットカードによる決済も多いため、できれば「クレジットカードの決済環境」を整えておきたい。導入時のコストはかかるが、クレジットカード決済を導入すると集客力や客単価のアップにつながる。ただし、小売店や百貨店に比べると、バーなどの飲食店は加盟店手数料率がやや高い傾向にあるものの、クレジットカードを使えるようにしておくことでお客の利便性を高め、売上増加につなげることができる。
2.客数を増やし、客単価を上げる工夫をする
バーの売上を伸ばすには、「客数を増やすこと」と「客単価を上げること」の2点が重要になる。前述のシミュレーションを見れば、客数・客単価が売上に大きな影響を及ぼすことは一目瞭然だ。
客数を増やす工夫としては、「チャージ料をなくす」「無料会員制度(特典あり)をつくる」などの方法が挙げられる。コストはかかるかもしれないが、そのぶん客数が増えれば発生したコストは簡単に回収できるだろう。
また、客単価を上げる施策としては、無難なアルコール類に注文を偏らせないことがポイントだ。単にメニューを増やすだけではなく、知識がないお客が本格的なアルコールを楽しめるように、メニューに説明書きを追記するなどの工夫が必要になる。
このように、客数・客単価は細かい工夫によってある程度アップできるので、実際に経営することをイメージしながら、さまざまな工夫を凝らしてみよう。
3.バー経営に適した立地を選ぶ
客数を増やす工夫としては、バー経営に適した「立地」を選ぶことも重要になる。できるだけ人通りが多い立地を選ぶことは当然だが、ほかにも以下のような点を意識しなければならない。
- ターゲット層がよく通る立地を選ぶ
- 競合店(ターゲット層やコンセプトが同じ店)が多いエリアは避ける
- コンセプトに沿った立地を選ぶ
バーを開業する場合、必ずしも「人通りが多い=客数が増える」とは限らない。たとえば、安さが求められる学生街で高級志向のバーを開業しても、多くのお客を集めることは難しいだろう。
つまり、バーの立地は人通りに加えて、ターゲット層やコンセプトを強く意識しなくてはならない。事業計画を頭に浮かべながら、経営により最適な立地を選ぶようにしよう。
何度もイメージしながら、開業に最適な環境づくりを
バーはアルコール類を中心に提供し、かつ深夜にも営業するケースが多いため、一般的な飲食店とは用意するべきものが異なる。それに応じて成功のポイントも変わってくるため、ほかの飲食店と同じように計画を立てるべきではない。
また、飲食物に加えて「遊興」を提供する場合は、開業の手間がさらに増えるので要注意だ。必要なものを過不足なく揃えるのはもちろん、実際に営業することを何度もイメージしながら、開業に最適な環境をしっかりと整えておこう。
文・片山雄平(フリーライター・編集者)